写真de俳句の結果発表

第60回「双子のようなペンギン」《ハシ坊と学ぼう!⑦》

ハシ坊

第60回のお題「双子のようなペンギン」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

ワンオペの哺乳瓶三つの西日濃し

釣女

夏井いつき先生より
「兼題写真の『双子のような……』から、妹の子供の三つ子が赤ちゃんだった頃を思い出しました。旦那さんは仕事の帰りが遅く、実家の母も毎日は手伝いに行けず、それも日中だけで、妹はほぼワンオペ状態。私がある日行くと、三つ子の口に三本の哺乳瓶が入っていました。大変さを痛感した瞬間でした」と作者のコメント。

「ワンオペの」と説明しなくても、「哺乳瓶三つ」で十分に状況は想像できます。上五を外すだけで、調べも作りやすくなりますし、もう一工夫する余裕も生まれます。
“参った”

夏夢にすがる「蜘蛛の糸」なる猫の脚

宙朔

夏井いつき先生より
「最近夫が施設に入居し、夫婦離ればなれの生活が始まったところです。彼の介護の緊張から、一時、離れることができたのは幸いでもあるのですが、眠りの中で不安な夢を見ることもしばしば。あのカンダタがすがった蜘蛛の糸が切れそうだと! 果たして、抱きついた糸の正体は……。『同衾』するわが愛猫の脚の和毛でありました」と作者のコメント。

このエピソード全てを、一句にするのは至難の業です。まずは、一人で眠る状況で一句。夢のことだけで一句。猫と一緒に寝ていることで一句。という具合に、場面ごとに切り取っていきましょう。
“ポイント”

新聞のペンギンの腹夏休み

月季 紫

夏井いつき先生より
「腹には『疾走』と書いてあったようですが、俳句にできませんでした」と作者のコメント。

どういう状況なのでしょう? 新聞の記事にペンギンが載ってる? 子供の作る壁新聞? 上五中七が解読しにくいです。
“ポイント”

抱卵をやめる夜寒よ巻きタオル

うーみん

夏井いつき先生より
「小学生の頃、飼育委員をしていました。飼っているニワトリがときどき卵を産むのですが、温めようとしないので、家に持って帰って温めてみたことがありました。結局、24時間抱き続けるのは無理だと悟り、諦めました。『巻きタオル』は、プールの着替えに使うかぶるタオルです。実際は普通のタオルにくるんで抱っこしていたのですが、映像化しやすいと思って、『巻きタオル』という言葉を入れてみました」と作者のコメント。

「抱卵をやめる夜寒よ」までは良いのですが、下五「巻きタオル」への展開が、ちょっと強引です。生き物に母性が育っておらず、抱卵をやめることもありますので、上五中七はそういう意味だと受けとめてしまいました。
“ポイント”

鉄棒よつばめの春とペンギンと

みえこ

夏井いつき先生より
「最近の小学生は、鉄棒でつばめのポーズを習うそうです。上手なつばめと不出来なペンギンと取り合わせました」と作者のコメント。

この「つばめ」が、つばめのポーズだということが読み取りにくいのが難点です。更に、下五に「ペンギン」がでてくると、更に意味が分かりにくくなります。
“ポイント”

休暇果て一人称は移行せり

壱時

夏井いつき先生より
「休暇果つ」という季語と「一人称」は、詩を発生しそうな取り合わせです。「~は移行せり」の意味が分かりにくいのが損。再考してみましょう。
“良き”

ペンギンや故郷何処雪の朝

秀翁

夏井いつき先生より
「『ペンギンや』にしたんですが、三段切れになりますか?」と作者のコメント。

確かに三段切れになっています。「ペンギンの」とすれば回避はできますが、「ペンギンや」という上五はそれなりに面白い企みです。私ならば、中七下五を再考するかなあ。
“参った”

ペンギンの泡賢治忌の天井を

看做しみず

夏井いつき先生より
面白い取り合わせです。下五だけ、再考してみましょう。佳句になりそうですね。
“ポイント”

踏み締める朝の石段蚯蚓のミイラ

雪花

夏井いつき先生より
「字余りが気になりましたが、推敲しきれませんでした。通勤路の光景です」と作者のコメント。

「踏み締める」「朝」「石段」「蚯蚓」「ミイラ」、これらの自立語に、優先順位をつけてみましょう。一単語減らすだけでも、調べがゆったりしてきます。
“ポイント”

コンサート沢山のペンギンの秋

油そば

夏井いつき先生より
材料を一つ減らしてみましょう。この場合でしたら、「ペンギン」と「秋」で一句になるだけの材料がありますので、「コンサート」を外してみましょう。「ペンギン」を「沢山」と端折らないで、描写することを心がけて下さい。
“ポイント”

季語なし

霹靂や心音二つ聴こえます

真秋

夏井いつき先生より
「第一子の最初の検診で、医師に言われた言葉と衝撃を覚えています。実際は後日双子ではないとの事でした。喜びと現実との感情は正に晴天の霹靂でした」と作者のコメント。

「霹靂」は、意味としては雷などを指しますが、季語とは認識されてないようです。中七下五のフレーズに対して、説明的なのも気になります。
“ポイント”

ペンギンの瞳に映る夏休み

鈴なりトマト

夏井いつき先生より
「瞳に」とあれば「映る」は不要です。「ペンギンの瞳に夏休の○○」この二音を考えてみましょう。俳句は言葉のパズル。これも、俳筋力のトレーニングです。
“ポイント”

路線図なる春のペンギン相関図

ひいらぎ

夏井いつき先生より
中七下五は良いと思います。上五は比喩のつもりなのだろうと思いますが、ここが分かりにくい。一端、「路線図」から離れて、上五を再考してみましょう。
“参った”

夏の空仰向けのペンギン見たゐ

芳山

夏井いつき先生より
「見たゐ」は、「見たい」の意でしょうか。新仮名でも旧仮名でも「見たい」ですね。文語で書きたければ「見たし」。文語と口語、新仮名と旧仮名に関しては、YouTube『夏井いつき俳句チャンネル』【文体と表記】を参照して下さい。
“良き”

ファーストペンギンの如く飛び出す衣被

三浦海栗

夏井いつき先生より
「衣被を茹でている時、ひとつ取り出して味見をしようとし、つるんと飛び出した事があります。ペンギンのぽってりした姿と衣被の形、勢いよく飛び出す様子を句にしました」と作者のコメント。

季語よりも、比喩が目立ちすぎています。俳句は、言葉の質量のバランスです。
“ポイント”

グワシと列へ戻される企鵝新学期

江口朔太郎

夏井いつき先生より
「ペンギン散歩を見ていて、可愛いなと思いつつも、行きたいとこへも行けず決められたラインをひたすら歩かされているのか、と感じてちょっと切なくなりました」と作者のコメント。

「ペンギンはグワシと列へ」と書けば、「戻される」は不要です。季語は要一考です。
“ポイント”