写真de俳句の結果発表

第56回「百日紅の名所」《ハシ坊と学ぼう!⑪》

ハシ坊 NEW

第56回のお題「百日紅の名所」

評価について

本選句欄は、以下のような評価をとっています。

「天」「地」「人」…将来、句集に載せる一句としてキープ。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。

特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。

「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考えるそれが最も重要な学びです。

安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。

通夜明けに燃ゆるよ庭の百日紅

オアズマン

夏井いつき先生より
「切れ字『よ』に余韻を持たせたつもりです。『燃ゆる』は季語にかかりますが、『朝焼け』もイメージしました。又、『や』と『よ』の使い分けを十分理解できているとは思いませんが……」と作者のコメント。

「通夜明け」と「百日紅」の取り合わせは佳いですね。「~に」という助詞、百日紅という花に対する「燃ゆる」という描写、更に「庭」が必要かどうか。この三点について考察してみましょう。
“ポイント”

舌鼓縄文の塩染むる雉

早霧ふう

夏井いつき先生より
第45回『ニースの塩』〈秋麗椀に盛られし海と山〉〈縄文の澄ましの椀や雉の骨〉の再推敲です。『縄文の塩』のご助言。汁の味付け、予め雉に塩を振り染みた方が美味しいと考え、中七下五をこうしました。上五を『土器へ入る』『火を起こす』『椀に盛る』『てんこ盛り』などと迷いましたが、『し』で韻の踏めること、お汁の豊かさを考えて、『舌鼓』といたしました。《ハシ坊と学ぼう!》のご助言、いつも嬉しく思っております」と作者のコメント。

「縄文の塩染むる雉」いいですね! こうなってくると。上五「舌鼓」は不要。中七下五の内容を、ゆったりと十七音にすれば、調べも格段によくなりますよ。完成が近づきましたね。
“ポイント”

砕け落つ洗濯ばさみ百日紅

うく

夏井いつき先生より
実感おおあり! 「落つ」が洗濯ばさみにかかるなら連体形にする必要があります。上五を「砕け落つる」とするか、終止形で使える語順にするか、二択です。

添削例
百日紅洗濯ばさみ砕け落つ
“ポイント”

百日紅丘の上の墓地の端

深草くう

夏井いつき先生より
「実家の墓地はゆるい丘の上で、隅の方に百日紅が植わっています。夏はそこだけが日陰です。炎天下の墓参り時のことを思い出しました」と作者のコメント。

語順は逆にしたほうが、映像として効果的です。「丘」から始まって、下五に「百日紅」を置いてみましょう。
“ポイント”

さるすべり季節の替わり告げにけり

みほ

夏井いつき先生より
中七下五は、どんな植物の季語にも当てはまってしまいます。
“ポイント”

百日紅季節果つまで佇立せり

木漏

夏井いつき先生より
中七下五が、季語の説明になってしまいました。
“参った”

花冷えや花壇の奥のマリア像

よはく

夏井いつき先生より
「花冷え」の「花」と、「花壇」の「花」がバッティングしているのが、とても惜しい。冬ではない「冷え」の季語と取り合わせる感覚はとてもよいと思いますので、この季語を再考してみますか。
“ポイント”

百日紅アポロ離るるときかなし

那乃コタス

夏井いつき先生より
「子供の頃、夏の暑い日に百日紅の花を分解して遊びました。ちりちりとした円錐形の小花は、私には小さな宇宙船のように思えて、ふと紺色の宇宙空間の中で花を触っているような気がして、なんだか息苦しくなったものです」と作者のコメント。

なるほど、そういう意図なのですね。中七下五では、そこまで読み取りきれないのが、悩ましいところ。ただ、「百日紅」と「アポロ」の取り合わせは、新鮮です。
“ポイント”

尾生は待つ雨にゆれる百日紅

安久愛 海

夏井いつき先生より
「兼題写真を見ていると、昔読んだ芥川龍之介の『尾生の信』という短編小説を思い出しました。尾生は女と橋の下で待ち合わせをしますが、大雨のためどんどん水かさが増してきて、それでも待ち続けていたため、最後は溺れてしまうという、融通のきかない男の悲しいお話です」と作者のコメント。

「尾生の信」とは、「固く約束を守ること。また、ばか正直で、融通のきかないたとえ」です。芥川の小説は、この故事成語を元にしたもの。誰かの小説を本歌取りするのは、なかなか難しいのですか、「百日紅」と取り合わせたのは工夫です。あとは、調べを調整してみましょう。人選は目の前です。
“ポイント”

親鴨の波にまごまご子のまなこ

西瓜頭

夏井いつき先生より
「鴨の親子が庭園で泳いでいて、一匹だけ遅れた子鴨が波紋にバタバタしていた様子なのですが、『子鴨』と表記しないと夏の句にはならないのでしょうか? 焦点は子鴨なのですが……。『子鴨の目』とも迷ったのですが、『まごまご子のまなこ』というリズムが気に入ってしまって……」と作者のコメント。

「子」が、鴨を見ている人間でないのならば、やはり「子鴨」と書くべきでしょう。
“ポイント”

落つ猿の託言がましく夏の池

レオノーレ・オオヤブ

夏井いつき先生より
「落つ」は終止形なので、ここで意味が切れます。「猿」にかかっていくのならば、「落つる」と連体形になります。また、中七の表現には一考の余地があります。
“ポイント”

鳥雲に入る機窓には遺骨かな

鶴喰 照

夏井いつき先生より
ご遺骨を抱いて飛行機に乗っているのでしょうか? 「機窓には」という書き方が少々引っ掛かります。季語は「鳥雲に」と短いバージョンも使えますし、最後の「かな」が必要かどうかも含めて、一考してみましょう。
“ポイント”

母看し朝花より影濃し百日紅

悠美子

夏井いつき先生より
「実家に泊り込み、何日もほぼ眠れずに母を介護していた真夏のある朝、二階から庭を見下ろした時に見た百日紅の花の紅の濃さと、それよりも濃い影の映像が目に焼きついています。『徹夜明け』『寝ずの番』にしてみたり、『影更に濃し』『影花よりも濃し』『花より影濃き』等々、最後まで試行錯誤しながらの投句です」と作者のコメント。

人生の中のこういう瞬間が、脳内の真空パックされていて、何度でもありありと思い出す。俳句に残しておきたい一枚の写真のような光景です。
方向性としては二つ。
①「母看し」の要素を残す。
②「百日紅」の映像だけにする。
①を選ぶとすれば、「花より」という比較情報を入れることは少し難しい。調べが窮屈になりますので。②を選ぶならば、描写の精度をひたすらあげていくしかありません。
①の場合の添削例のみ。

添削例
母を看し朝よ影濃き百日紅
“ポイント”

百日紅裳裾に似たるフリル花弁

ミワコ

夏井いつき先生より
「裳裾」と「フリル」、どちらか一語でよいでしょう。
“参った”

藤の香や玉子サンドと写生会

藤康

夏井いつき先生より
「藤」と「玉子サンド」、「藤」と「写生会」、それぞれ二句にしてみましょう。十七音の器に盛るには、それぐらいがちょうどよい分量です。
“ポイント”