第43回「花屋さん内のカフェ」《ハシ坊と学ぼう!③》
評価について
本選句欄は、以下のような評価をとっています。
「並選」…推敲することで「人」以上になる可能性がある句。
「ハシ坊」…ハシ坊くんと一緒に学ぶ。
特に「ハシ坊」の欄では、一句一句にアドバイスを付けております。それらのアドバイスは、初心者から中級者以上まで様々なレベルにわたります。自分の句の評価のみに一喜一憂せず、「ハシ坊」に取り上げられた他者の句の中にこそ、様々な学びがあることを心に留めてください。ここを丁寧に読むことで、学びが十倍になります。
「並選」については、ご自身の力で最後の推敲をしてください。どこかに「人」にランクアップできない理由があります。それを自分の力で見つけ出し、どうすればよいかを考える。それが最も重要な学びです。
安易に添削を求めるだけでは、地力は身につきません。己の頭で考える習慣をつけること。そのためにも「ハシ坊」に掲載される句を我が事として、真摯に読んでいただければと願います。
睡蓮のカフェを借り切る見積書
栗田すずさん
珈琲の氷溶けゆく仕掛譚
むげつ空
ご希望のようですから、ハシ坊にて、お返事を。
この句の季語=季節感は「珈琲の氷」ですから、アイスコーヒー。下五「仕掛譚」から、藤枝梅安を思い出す人もいるとは思いますが、「トリックでも恋の手練手管でも、お好きなジャンルで読んでいただけたら幸い」という期待は、少々期待しすぎ(苦笑)。
取り合わせとしては面白いのですが、溶けていく「珈琲の氷」と「仕掛譚」のバランスが難しい。人選には入るけど、それ以上となると厳しいかな。下五、更にどんな取り合わせの展開があるのか。再度挑む甲斐はあるのではないかと。
砂浜の夜の車座やソーダ水
ふのんへん宗悟
このコメントが気になったので、一言書かせていただきます。
「ハシ坊」は誰かを晒し首のするためのものではありません。丁寧に読んでいただければわかりますが、内容も、初級から上級まで多岐に渡っております。これらのアドバイスは、その作者だけのためのものではなく、他の皆さんも共に学べる絶好の機会であると受け止めていただけると、私もやりがいがあるのですが、「ハシ坊で晒された」と受け止められているのだと思うと、少しサミシイです。
この句自体は、人選です。
入り沈むスプーン遅日のパフェの層
常磐はぜ
目のつけどころがいいです。音数調整が実に惜しい!
添削例
沈みゆくスプン遅日のパフェの層
香り立つ花の都の朝のカフェ
ねこぱんだ
この「花」は、季語というよりは、「花の都」という慣用句としての意味合いが強いのではないかと。
風そよぐベンチで薔薇のソーダ水
一石 劣
の花豆さんの句、〈春寒や移動スーパーにシベリア〉に対する先生のコメントには、『下五「~にシベリア」の句意が読み取れないのですが……』とありました。 このシベリアは、カステラの間に羊羹状の餡を挟んだ菓子パンの様なものの事でしょう。好みを覚えてくれていて、さりげなく置いてくれている店主の気持ちを温かく思う。というようなことではないかと解釈しました」と作者のコメント。
まずは最初の質問から。
これは、「薔薇の(咲く)ベンチ」なのでしょうか、「薔薇(色)のソーダ水」なのでしょうか。この字面からは、そのあたりが明確でないのが、気になります。
さらに、二つ目の質問。
「シベリア」か菓子(あるいは、売り物の名)であることが分かるような工夫は可能かと思います。季語「春寒し」から考えると、「好みを覚えてくれていて、さりげなく置いてくれている店主の気持ちを温かく思う」と好意的に読むには、ささやかなハードルがあるかなと。
カフェにひとり花に埋もれてハーブティー
宙海(そおら)
「『花』だと桜になっちゃうよねぇ……と思ったのですが、ほかの季語を見つけられませんでした。^^;」と作者のコメント。
方法は色々あるのですが、飾られている花の中の最も印象に残る花の名を、季語として使うのが、手っ取り早い方法。あるいは、「初夏のカフェ」「春のハーブティー」など、映像のない季語をもってくるのも一手です。
ラテアート白菊痛し秋没日
佐藤 啓蟄
パンケーキ突付く憂鬱や花のカフェ
時乃 優雅
この語順ですと、完全に店内のイメージなので、下五「花のカフェ」は、色とりどりの花が飾られたカフェを想像させます。桜の花の光景を先に認識させる。そのような工夫が必要です。
取り取りの花選ぶ人眺む人
扇百合子
パトカーも止まる初夏のレモネードスタンド
星 秋名子
「レモネード」も、夏の季語「清涼飲料水」の類であると考えることもできます。これだけの内容を入れたいのであれば、その方針で推敲してみてはどうでしょう。
雨宿り店先の花匂い立つ
風音
俳句における「花」とは、桜を意味する季語です。この句の意図は、花屋さんの「花々」を指すのではないかと、推測します。
春茜今日はベンチにレモネード
紫桜
わき役でいいの私はかすみ草
まほろば菊池
「かすみ草」が、比喩として使われています。季語を比喩として使うと、季語としての鮮度が落ちるのです。
春の夜や満腹腹を抱え花見いちご
マーキ
「春爛漫の夜、お腹がいっぱいで苦しいのに、満開の桜を眺めながらいちごパフェを食べたい、という欲求に駆られます。フードロスや切り花を捨てるロスを思い浮かべ、もったいない気持ちが募るというイメージを詩にしました」と作者のコメント。
「春の夜」が主たる季語だろうと推測しますが、「花見いちご」の字面が邪魔します。これは、そのようなネーミングのパフェ?
とりどりの苺檸檬とさよならと
大福
「苺檸檬」? 「苺」と「檸檬」?
汗かいて迷うことなくレモネード
崎曽根篤子
「汗」は夏の季語。「レモネード」は、「清涼飲料水」という夏の季語の範疇にありそう。この場合、「迷うことなくレモネード」というフレーズを生かして、上五を一工夫すると「汗をかきながら、この店まで来たのだな」と読み手が想像してくれる句になりますよ。
蚤の市愛されし品薄暑光
丸山和泉
「第40回『蚤の市』《ハシ坊と学ぼう!⑬》〈路傍に目愛されし品薄暑光〉で、夏井先生に『兼題写真を見てない人に、「路傍に目」がどういう状況なのか、分かり難いだろうと思います』とお言葉を頂きました。上五を『蚤の市』にしてみました。『蚤の市』には異国へのあこがれを、『薄暑光』には、やわらかい陽射しがスポットライトのように順々に品々を照らしてゆく様を思いました」と作者のコメント。
アドバイスを踏まえて、丁寧に再考して下さってますね。
「蚤の市」という場の情報があるだけで、ぐんと映像化されています。惜しいのは、「蚤の市/愛されし品/薄暑光」それぞれ、名詞でブツブツと調べが切れていること。語順を替えると、調べもなだらかになります。
添削例
愛されし品々薄暑の蚤の市
犠打無視も凡打の吾子や花菜咲む
一石 劣
「第41回『お腹が空いていましたので』の自身の句〈夫のエラー土手から咲う菜花かな〉の推敲句です。『夫のエラー』を、具体的に何をやっているのかを描写しましょう、とのお言葉を頂きました。読者の想像力を借りながら、具体的な内容がわかる様にしたつもりです」と作者のコメント。
えーっと……「夫」ではなく、「吾子」に変わったのですね? 原句でいえば、〈菜の花や夫(つま)の凡打を笑う土手〉とすれば、そのまま生かすことはできますよ。
ストローに纏はる気泡夏兆す
佐藤儒艮
「~纏はる」は要一考。
白きパフェのゆるりとけり春惜しむ
つづきののんき
「とけり」は、文法的に要一考。「溶ける」の文語「溶く」は、カ行下二段活用。完了の助動詞「り」は、下二段活用には接続しません。
ふたりして旅の手受くる春の雪
青水桃々